僕が中学生の頃、皆は最先端のプレイステーションやスーパーファミコンで遊んでいた。(サターン派もいた)
でも僕はファミコンが大好きだった。
綺麗なグラフィックより色数がぐんと制限されたファミコンのピクセルアートに心がときめいた。
あとトンチキなゲームが多くて不思議な魅力を放っているところにも惹かれた。
出せば売れる時代だったからだろう。意欲的で挑戦的なゲームや、特に何も考えてない怪作も多かった。
その頃、僕には高橋くんという友達がいた。
高橋くんには歳の離れたお兄さんがおり、高橋くんの家にはファミコンのカセットがたくさんあった。
僕は高橋くんの家でよくファミコンを遊ばせてもらった。
その中の一本が未来神話ジャーヴァスだった。
未来神話ジャーヴァス
僕と高橋くんはいつものようにチャレンジャーで遊んでいた。
全然クリアできなくてハシャいでいると、高橋くんのお母さんがやってきてコントローラーを僕から奪った。
「よく見とけ!」
と言って高橋くんのお母さんはチャレンジャーをすいすいクリアしていった。
定番の流れだった。
僕たちのファミコン遊びは高橋くんのお母さんによるチャレンジャーのクリアから始まるのだ。
母の凄さを堪能した後は、たくさんあるファミコンカセットのコレクションから遊ぶゲームを選ぶ。
色とりどりのカセットがプラケースにたくさん詰め込まれており、まるで宝石箱のようだった。
その中に「未来神話ジャーヴァス」があった。
超かっこいい。ジャーヴァス! なんて良いタイトルなんだ。未来神話ジャーヴァス! 口に出して言いたい。
僕はジャーヴァスやろうぜ! と言ってそのカセットを手にとった。
ふと高橋くんを見ると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
それ最強にクソゲーだぜ、と高橋くんがつぶやく。
僕はクソゲー? 最高じゃん。やろうぜ!! とテンションが上がった。
当時の僕の中ではクソゲーというのは笑えるゲームを指す言葉だった。
いっきとかスペランカーとかアトランチスの謎とか。どこか味のある面白いゲームのことをクソゲーと呼んでいた。
そういう意味ではなかった。
真の駄作という意味で未来神話ジャーヴァスはクソゲーだった。
何をすればいいのか
早速ゲームを起動するとタイトル画面が出る。最高にクールなタイトル画面の登場だ。
雰囲気に合わない妙に爽やかでポップなBGMに不安になるが、間違いなく格好いいタイトルだ。
興奮を抑えきれずに僕はSTARTを押す。
唐突に体に悪そうな野原に放り出される。画面の中央にはうんこ色の宇宙飛行士みたいなキャラクターが表示されている。
ボタンを押すと棒を振る。違うボタンを押すとごちゃごちゃしたメニューが出てきた。
メニューの内容から察するにRPGっぽい。
え? これRPGなの?
RPGなのにオープニングやストーリーがないの?
普通は王様やら何やらが目的を教えてくれたりするのに、野原に放り出されるRPGとは。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーしか遊んだことのない僕には衝撃のスタートだった。
何をすればいいのか全くわからないので、高橋くんに説明書見せて! と言った。
「ないよ」
死んだ目で高橋くんは言った。
高橋くんと未来神話ジャーヴァスの出会い
高橋くん家では、カセットとは別に本棚に説明書を保管してある。
今まで説明書が無いゲームはなかった。
僕が不思議そうにしていると、高橋くんはぽつりぽつりと話し始めた。
そもそもそのゲームは買ったものじゃないんだ。
拾ったんだよ。
俺がまた小学生だった頃、学校から帰ってる途中に道端に落ちていたんだ。
雨の降りしきる中、寂しそうに震えていた。
俺はラッキーと思って拾って帰ったんだよ。
捨てられた子犬を拾った時のエピソードかと思ったがそうではないらしい。
未来神話ジャーヴァスを拾った時のエピソードだった。
高橋くんはジャーヴァスと運命的な出会いをしていたのだ。
「その証拠にほら」
とジャーヴァスのカセットを引っこ抜いて背面を見せてくれた。
そこにはひらがなで「ささき けいすけ」と書いてあった。
誰だよ。
「きっとこのけいすけが怒りのあまり捨てたんだ。クソゲーすぎて」
けいすけが捨てたジャーヴァスを高橋くんが拾ったらしい。
けいすけ……。見知らぬ少年よ……。さぞ悔しかったんだろうな。
よし、これも何かの縁だ。
「高橋くん、ジャーヴァスをクリアしよう! けいすけの無念を晴らすんだ!!」
僕がそう言うと高橋くんも熱くうなづいた。
「俺たちでクリアしよう!」
ジャーヴァス攻略への道のり
再びファミコンにカセットを差し込みプレイを再開する。
しばらく歩いているとザコ敵が出現した。どうやらゼルダの伝説みたいなアクションRPGらしい。
近づいて棒を振る。
しかし当たらない。棒のリーチが短すぎる。
棒は棒でもうまい棒くらいの短さだ。色もめんたい味っぽい。
ぶんぶんうまい棒を振り回すが、敵に当たらず代わりにどんどんダメージを食らう。
これこそがクソゲーというものか。
ひどすぎる。
さっきまで遊んでいたチャレンジャーとは比べ物にならない。クソすぎる。
この苦行を乗り越えなければいけないのか。
僕は唇を噛み締めた。
しかし、それは苦行の単なる一歩でしかなかった。
当たらない攻撃、買えない武器、溜まらないお金、急に変なところにワープして戻れないなどなどクソ要素でいっぱいだった。クソのバリューセットだ。
何度も詰みまくり、その度に最初からスタートする。無限地獄だ。
これではいつまで経ってもクリアなんかできっこない。
そもそもRPGで詰むって有り得ないだろ。
レベルを上げたり装備を強化したり情報を集めたりすれば、RPGはクリアできるもんなんだ!!
そうだと言ってくれ。
攻略方法が全く分からない。
そして何よりつまらなかった。
全く面白くない。主人公を動かす楽しさや、敵を倒す爽快感なども皆無。
BGMもやたらとキャッチーで耳に残る。
これは……これは!!
僕たちの出した結論
「高橋くん、これは壊れてるよ。きっと雨に濡れたせいで壊れたんだ。だからクリアできなくなってるんだ」
僕は力無く言い捨てた。
「そうだな。きっとそうだ。これは壊れてるジャーヴァスなんだ」
高橋くんも同意してくれた。
そう、僕たちが遊んでいたジャーヴァスは壊れていたのだ。
そのせいでデータが変になっているに違いない。だからクリアできないんだ。
「残念だよ。きっと本当のジャーヴァスは面白いゲームだったはずなのに」
「そうだな……」
僕と高橋くんは誓った。
いつの日か壊れていないジャーヴァスを遊ぼうと。
名作のジャーヴァスを、神ゲーの未来神話ジャーヴァスを遊ぼう!!
まだ見ぬ未来に思いを馳せて僕たちは壊れた未来神話ジャーヴァスを窓から思い切り放り投げた。
未来の僕から
あれから何年経ったでしょうね、高橋くん。今も元気にしていますか?
高橋くんのお母さんは今でもチャレンジャーがクリアできるのでしょうか。
久しぶりにお酒でも飲みに行きたいですね。
ところで高橋くん。2018年の僕から報告があります。
あのジャーヴァス、壊れてなかったわ。
ただのクソゲーだったわ、ジャーヴァス。