僕は益体もない話が好きなので、おにぎりの具で一番好きなのは? みたいな話が好きだ。
梅干し、鮭、ツナマヨ、おかか。ここらへんは定番中の定番だ。
たらこ、ちりめんじゃこ、高菜、すじこ。贅沢だ。もちろん美味い。
僕は断然わかめおにぎりが好きだ。塩っ気のあるコリコリしたワカメが美味い。子供の頃から好きだ。
そう、わかめは子供の頃から好きなんだよなぁ。
ここ数年、コンビニでおにぎりを買う時に昆布を買うことが多い。昆布の佃煮がごはんに合う。
しかし幼い頃は昆布が嫌いだった。
実家はご飯を炊く時に昆布を入れることがあって、白米に昆布の香りが移るのがすごく嫌いだった。
佃煮や煮しめなんかもよく出たが、どれもヌルヌルしてるし妙に甘いしで好きになれない。
やたらと食卓に並ぶ昆布に飽き飽きしていた。
しかし数年で実家の昆布ブームも去ってしまい、あまり食卓に昆布が並ぶことは少なくなっていた。
たまーに正月料理に入っていることはあったが、食べようとは思わなかった。
大人になって、転職した先で僕の歓迎会をやってくれることになった。
幹事の社長が「なにか苦手な物はあるかい?」と言ってくれた。
「特に好き嫌いはないです」と答えたが、久しぶりに昆布のことを思い出した。
「そういえば昆布はあまり好きじゃないですね」と答えたら「逆に昆布をメインに出す店を知らない」と笑われた。
そして「昆布が苦手ってあんまり聞かないね」と言われた。確かにあんまり聞かないかもしれない。
楽しい飲み会が終わって、帰り道にコンビニに寄った。
まだ昆布のことが頭に残っていたので僕は昆布のおにぎりを買った。
冷たい夜風に頬を撫でられながら、歩きながら昆布のおにぎりを食べた。
ほろほろと崩れる冷えた白米の中に昆布の歯ごたえがあり、時折白ごまを感じた。甘辛く旨味にあふれた昆布が最高にご飯に合っていた。
あぁ、昆布美味しいじゃないか。全然、嫌いじゃない。
同時に僕はなぜ実家で昆布ばかり出ていたのか思い出した。
祖母が昆布好きだったんだ。
幼い頃は祖母と同居していて、忙しく働く母の代わりに祖母に面倒を見てもらっていた。
祖母は田舎料理しか作らない人だったから、あんまり彩りの良い食卓じゃあなかった。それが不満だった。
いつしか祖母とは別居し、祖母の手料理を食べる機会がなくなった。それで昆布を食べなくなったんだ。
昆布ブームが去ったわけじゃなかった。祖母がいなくなってしまっただけだ。
なんとなく寂しい気持ちになった。
歳をとるたびに、祖母の田舎料理が恋しくなる。味覚もどんどんオッサンになっていく。
今なら昆布も美味しく食べられる。
もう一度だけでも良いから、祖母の田舎料理が食べたい。
ところで、昆布をいつ好きになったかでしたっけ。
いつの間にか好きになってました。